一括投資 or ドルコスト平均法
初めまして。先日、eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)を1億円ほど買ってみました。こちらの blog では、Twitter では読みにくくなってしまうような、ある程度まとまった文章を書いていこうと思います。
初回は、なぜ1億円の運用の際にドルコスト平均法ではなく、一括投資を選択したのか?についてお話します。結論を先に書くと、一括投資の方が長期的に見て資産が大きくなる可能性が高いことがデータで証明されているからなのですが、そのような結論に至った経緯をお話しします。(※厳密には1.09億円を1週間のうちに3回に分けて投資しているのですが、9,300万円を初回に入れているので、お話の都合上一括投資とします)
一括投資とドルコスト平均法については、バンガード社(インデックス投資における3大運用会社の1つ。他の2社はブラックロックとステート・ストリート)が、度々発信しています。ガイドライン的に用意されているのが、こちらの記事。
How to invest a lump sum of money一括投資の心得として、まずはこんな要点から始まっています。
- Dollar-cost averaging spreads the risk of investing.
- Lump-sum investing gives your investments exposure to the markets sooner.
- Your emotions can play a role in the strategy you select.
- ドルコスト平均法は投資リスクを分散してくれる。
- 一括投資は資金の市場投下の即時性を高めてくれる。
- どちらの戦略を採るかは、自身の感情に左右される。
どちらの手法を選択するかについては「お気持ち次第」と述べています。日本では、投資の教科書的な書籍でドルコスト平均法が推奨されている(ように私には思える)ためか、当然それを行うべきものだと考えている方が多いように思います。ですが、実際にドルコスト平均法を選択した際に何が起きるのか(何が得られて何が得られないのか)を、一括投資との比較でより深く理解し、その上でどのような気持ちを自分が抱くのかを明確に理解した方が良いと考えます。
上記の記事では、一括投資が有利な理由を以下のように提示しています。
- You'll gain exposure to the markets as soon as possible.
- Historical market trends indicate the returns of stocks and bonds exceed returns of cash investments and bonds.
- When markets are going up, putting your money to work right away takes full advantage of market growth.
- 資金を市場に可能な限り迅速に投下できる。
- 過去データを見ても、株と債券の組み合わせからのリターンは、現金と債券の組み合わせからのリターンを上回る。
- 上げ相場の場合、現金を即時投入することで市場の伸びをフル活用できる。
一方、以下のような心情を持つ場合には、ドルコスト平均法が良い「かもしれない」と述べられています。
- Minimize the downside risk of a huge investment.
- Take advantage of the market's natural volatility by lowering the average price you pay for shares.
- Avoid feelings of regret if the market takes a downturn after you invest.
- 金額の大きな投資を行う際の下落リスクを最小化したい。
- 株式の平均取得額を下げることで、株式市場自体のボラティリティを利用する。
- 投資実行後に市場が低迷しても、後悔しなくて済む。
そもそもの根拠として、バンガードは2012年に調査レポートをまとめていて、この中で一括投資に軍配を上げています。
ドルコスト平均法はリスクの先送りに過ぎない
このレポートでは、米国、英国、豪州の3カ国で、1926年から2011年の間に100万米ドル/100万ポンド/100万豪ドルを一括投資した場合と、ドルコスト平均法を使って上記金額を6、12、18、24、30、36ヶ月に分けて投資した場合での、10年間のパフォーマンスを調査しています。12ヶ月に分けて投資を行った場合は、以下のようなイメージです。
DCAがドルコスト平均法で、LSIが一括投資です。DCAのグラフの冒頭にある真鍮色の部分で、100万ドルを12等分して毎月投資します。LSIでは最初に100万ドルを一括投資します。2年目以降の9年間の保有期間では、両者に差はありません。そのうえで、10年経過時のパフォーマンスを比較します。
この作業を、最初は1926年1月から1935年12月まで、次は1926年2月から1936年1月までというように、86年 x 12ヶ月=1,032ヶ月の期間中、最終回の2011年1月から12月までの1,021回のパフォーマンスを計測します。また、資産の配分も株式100%、株式60%と債券40%、債券100%の場合を検証しています。
検証の結果、10年間経過後、一括投資がドルコスト平均法を上回る結果を残したケースが2/3、ドルコスト平均法が上回ったのは全体の1/3という結果が導かれました。なお、米国でも英国でも豪州でも全て同じ結果が見られました。
両者の金額の差は、米国市場での結果の平均額を比較すると、
- 一括投資:2,450,264ドル
- ドルコスト平均法:2,395,824ドル
とのことで、2.3%ほど一括投資が上回っていました。同様に英国では2.2%、豪州では1.3%の差が見られました。
さて、今から1億円を元手に株式投資を行うとしましょう。市場がこれから下落→上昇というトレンドを辿ると分かっていれば、ドルコスト平均法を用いて、下落時に安価に株式を取得した方が有利です。反対に上昇→下落の展開を知っていれば、上がる前に一括投資していた方が有利です。ですが、未来は誰にもわかりません。そんな中、両者を比べた際に、2/3の確率で一括投資が有利ですよ?というデータがあるのであれば、私ならそちらを選びます。
そうは言っても下落リスクは嫌だという方もいらっしゃると思います。リターンを増やす効率を上げるより、下落リスクの回避に集中したいのであれば、ドルコスト平均法を選択すべきでしょう。運悪く最初の投資後に市場が低迷を続けた場合には、ドルコスト平均法のリターンが一括投資を上回ります。
株式60%と債券40%で投資を行った場合で、先程の1,021通りの組み合わせのうち、成績が悪かったものから良かったものまでを一括投資とドルコスト平均法でそれぞれ並べ、ドルコスト平均法から一括投資を差し引いた結果が以下です。
5th percentileと書かれているのは、成績の悪かった下位5%までの結果を比べたものです。どの国でも、下位25パーセンタイル(成績順で言うと766位から1,021位まで)ではドルコスト平均法が優位であることが見て取れます。ただ、中間点である50パーセンタイルでは一括投資が逆転するため、全体で見ると一括投資の方が良いパフォーマンスを残したことになります。
一括投資の優位性がどれほど示されたとしても、とにかく最悪のケースをうまく回避することを主眼に置きたいという方もいるでしょう。バンガードのレポートでも、そのような考え方を「非合理的ではない (not unreasonable)」と評しています。回りくどい言い方なので、レポートの筆者自身はその立場にはない(=一括投資推し)であることが推察できますね。
1,032ヶ月の調査期間全体のうち、12ヶ月間の投資期間を確保できる1,021ヶ月において、資産の下落を迎えた月数を米国市場で比較すると、一括投資では229ヶ月(期間全体の22.4%)だったのに対し、ドルコスト平均法では180ヶ月(同17.6%)でした。さらに、一括投資ではこの229ヶ月間で84,001ドルの平均損失額を被ったのに対し、ドルコスト平均法の180ヶ月では56,947ドルの平均損失に留まっています。
ただし、このレポートでは続けてこう言っています。
It is essential to point out, however, that this temporarily cash-heavy asset allocation is much more conservative than the investor’s true target allocation (the one that will exist after the DCA period) and that, while this short-term deviation from the target provides some relative protection from market downturns, it does so by sacrificing some potential for greater portfolio gains. As with any asset allocation decision, investors must determine for themselves whether or not reducing their portfolio risk in an attempt to avoid losses and regrets is worth reducing the potential for higher returns.
ですが、このように現金の配分が高いアセットアロケーションを一時的に敷いてしまうと、投資家であるあなたが本来目指していた資産配分(ドルコスト平均法による投資完了後に達成される配分)よりもはるかに保守的であり、たとえ短期的であっても、この目標から乖離してしまうことで、市場低迷時のダメージが相対的に軽減される一方、ポートフォリオがより大きな利益を生み出す可能性を犠牲にしていると指摘せざるを得ません。投資家はアセットアロケーションの決定の際には、損失や後悔を避けるためにポートフォリオのリスク低減を図ることが、より大きなリターンの可能性を減らすに値するかどうかを自分で判断しなければなりません。
ということで、バンガードとしては一括投資推しであることが明らかな結びでありました。もちろん、これらの数字はあくまでも過去データでの話なので、未来にも当てはまるわけではありません。そのことを踏まえても、私個人としてはなるべく長く資金を市場に置いて、頑張って働いてもらいたいと考えているので、一括投資を選ぶに至りました。
ちなみに、上記のレポートは2012年と10年近く前のものなので、今はバンガード何て言ってるんだろう?と探してみたところ、バンガードのオーストラリア支社が2020年に、A new dawn for dollar-cost averaging(ドルコスト平均法の新たなる夜明け)という記事を書いていました。こちらはもう少し、リスクを避けたい投資家の心情に寄り添う内容になっているので、興味のある方はご一読を。
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今後も楽しみにしております。