リスク許容度とは
【この文章のまとめ】
- リスク許容度は3つに分けて考えると良い。
- 欲求:どのくらいリスクを取りたいか?
- 許容額:いくら投資に回せるのか?
- 耐性:どのくらい心を強く保てるのか?
- 耐性を上げるには?
- 信じられる対象に投資する。
- 稼ぐ力を上げる。
-----------------それでは本文をどうぞ-----------------
値下がりって嫌なものですよね。2021年11月末からの下落(5%程度)に肝を冷やした人も多かったようです。こちらは11月30日の私のツイートですが、1日で365万円の含み損が出ています。1日1万円の損を1年間続けていくスタイルですね。
下落発生の直前に入金してしまうと、最初から含み損を抱えて辛いかもしれません。ですが、インデックスファンドの長期投資において、このくらいの下げ幅は特段気にする必要はありませんし、自らの相場観や運を悲観的に思う必要もありません。市場がどう動くかなんて、そもそも誰にもわかりません。ETFや個別株と違って、リアルタイムに売買が成立しないインデックスファンドへの場合、そもそも今見えている基準価額で買うこともできません。良い買い時を見計らおうとしても、僥倖を頼む以外ありません。
オールカントリーへの投資の場合、世界経済の長期発展を信じて買っているのだと思いますが、その過程で起きる紆余曲折も織り込んで考えておく、つまり多少の下落は気にしないで済むように心を整えておくことが大事です。
このような話になると、「リスク許容度」という用語がよく出てきます。ちなみに投資におけるリスクとは、「うわっ、怖っ、危なっ」という話ではなく、期待される金額リターンの振れ幅を指します。まあ、振れ幅が大きいということは、下振れしたら含み損が大きくなるわけので、心理的にも「うわっ、怖っ、危なっ」に直結するわけですが。
さて、リスク許容度に話を戻すと、みずほ銀行のサイトではこう説明されています。
- リスクとは収益(リターン)の振れ幅のことですが、収益(リターン)がマイナスに振れてしまった場合、どれくらいまでならマイナスになっても受け入れることができるか、という度合いのことを「リスク許容度」といいます。
ふむふむ。この「度合い」って、何の度合いなんでしょうね?もう少し読み進めてみましょう。
- リスク許容度とは、「どれくらい投資元本がマイナスとなっても生活に影響がないか」「どれくらいまでなら投資元本がマイナスとなっても気持ち的/気分的)に耐えられるか」というものです。
なるほど。金額と気持ちの2つの要素が示されています。他の書籍やウェブサイトなどを見ても、この両者をまとめてリスク許容度と呼んでいることが多いように見受けられるのですが、明確に分けて考えた方が、より正確に自分の状況を把握できるのではないかと思います。また、気持ちの部分については、欲求と耐性に分けて考えると、より自然な流れで自身のリスク許容度を見つめることができます。
- 欲求:投資の目標達成のために、どの程度リスクを取りたいのか。
- 許容額:自身の環境や属性を踏まえて、どの程度リスクが取れるのか。
- 耐性:感情面を考慮すると、どのようなリスクの取り方が現実的なのか。
1. リスク欲求(どの程度リスクを取りたいか)
投資を行う際に、誰もが大なり小なり目標を立てると思います。例えば現在30歳で、300万円を元手にして65歳までに3,000万円作りたいとか、5,000万円まで膨らませたいといった具体的な目標です。目標が決まれば、その達成に必要なリターンが見えてくるので、それを満たすアセットクラス(株式、債券、不動産、貴金属、現預金など、投資の対象となるものの総称)と資金の配分、投資手法が選択可能になります。以下は私が独断と偏見でざっくり作ったイメージ図です(異論は認めます)。
目標金額を達成する道のりは千差万別です。どのような選択肢が存在するのか情報を集め、各商品のリスクとリターンの範囲を調べるわけですが、どのくらいのリターンで自分の希望額に届くのか?でスタートしてみるのが良いかと思います。フィデリティ証券に以下のようなリスク・リターンマップが用意されていたので、ポチポチと触ってみると参考になるかもしれません。
(keisanより) |
ただ、この目標額を30億円にしたい!となってくると、途端に難易度が上がります。10年前にビットコインを100円で1,000コイン買うような先見性があれば話は別ですが、そういう投資対象が登場する頻度は高くありません。FXなどでレバレッジを大きくかけて勝負するという方法もありますが、こうなるとリスクが高まるので、結果的に損をした時のダメージの度合いも大きくなってしまいます。
2. リスク許容額(いくらまで投資に回せるのか)
どんなに強いリスク欲求を抱えていたとしても、その達成に向けて投資できる許容額は、その人が置かれた状況である程度決まってしまいます。リスク許容額の決定要因には、年齢、年収、職業の安定性、現在の資産額、不要が必要な家族構成、実行可能な投資スタイルなどがあります。ちょっと極端な比較ですが、話をわかりやすくするために、元手の金額が同じ(例えば1,000万円)AさんとBさんとで比較してみましょう。
- Aさん:30歳の独身男性。職業は公務員で、年収は500万円。
- Bさん:65歳で定年後は無職。専業主婦の配偶者と、高校生のお子さんと3人暮らし。
Aさんは安定した職業と若さを持ち合わせているので、投資の選択肢も多く検討できそうです。年収は飛び抜けて高いわけではないので、大きな損失が発生してしまうと回復に時間がかりますが、一度転んでもまだまだ取り返す時間はありそうです。時間を味方に付けた堅実な運用をするもよし、リスクを取った大胆な構成を考えるもよし、両者を組み合わせるもよしと、大きく分けて3つの方向性を考えることが可能です。
Bさんはここから大きくお金を稼ぐことは無さそうです。書いた小説がベストセラーになるとか、YouTuberとして人気が出るといった可能性もありますが、再現性の低いものを考えに織り込むべきではありません。投資については、家族が路頭に迷わないような手堅い構成を考えるべきで、それが現実的に見て唯一の方向性になってしまいそうです。
3. リスク耐性(どのくらい心を強く持てるのか)
リスク耐性は、どの程度リスクに耐えられるのかという心理的な話です。11月末からの下げ相場の時に落ち着いている方もいれば、ちょっと気になってしまう方、だいぶ気になってしまう方など様々いらっしゃいました。これがそのまま、各人のリスク耐性を表しています。
- 耐性・高のAさん:まあそういうこともあるよね。で、お昼何食べようかな?
- 耐性・中のBさん:理解はしているけど、気にはなっちゃいます。
- 耐性・低のCさん:含み損が出ちゃいました。もうつらいです。
リスク耐性に応じて、アセットクラス(何に投資するか)やアセットアロケーション(選択した対象への投資額の配分)を選択し、実際の投資の中で自分がどう感じるのかに合わせて修正しましょう、というのが教科書的な姿勢ですが、このあたりは投資する側も訓練が必要ではないかな、と思います。例えば、以下を知識として持っていてもオルカンやS&P500に投資して、数%の値下がりで心を乱してしまう人もいるわけです。
- 値下がりや含み損の発生は回避できない
- 値下がり幅を抑えたいなら、株より値動きの小さい債権や金に投資すべき
- 値下がりや含み損がどうしても嫌であれば、元本保証型の商品を選択する
私見ですが、これまで貯金中心にやってきた人の場合、そもそもお金が減ることを経験していないので、投資の仕組みを頭では理解できても心で納得できないことが多いようです。投資を貯金の頭で考えてしまうと、含み損が出た時点でそれが確定してしまった(=損が確定して、元本割れしてしまった)と無意識に誤認し、ストレスを溜め込んでしまうわけです。
誰もが「耐性・高のAさん」になれるわけでは無いとは思いますが、投資対象の可能性を信じられる理由を明確にしておけば、多少の値動きには動揺せずに済みます。それに加えて、稼ぐ力を高めておけば鬼に金棒ですね。
可能性を信じるには
天気を例にしてみると、われわれは晴れの日ばかりではないことを知っています。なので、雨の日や曇の日が続いても晴れが来ないとは思い込まないし、落ち込むこともありません。それと同じように、仕組みをよく理解したうえで、将来の発展を信じられる対象に投資をすることで、下落局面でも「まあ、そういう時期もあるよね」と考えられるようになります。
もちろん、その対象を取り巻く事象が変わった(ゲームチェンジやパラダイムシフトが起きた)場合はその限りではありません。なので、潮目の変化の判断基準や、撤退基準を設けておくことも重要です。
私がオールカントリーを信じて投資できている理由を少しお話しすると、まずこの商品は時価総額加重平均を用いて、世界全体に投資してくれます。つまり、各国の状況に応じて強い国に自動で重み付けをし、弱い国への割当を軽くしてくれるわけです。最も強い市場(現在だとアメリカ)に集中していないので効率は最高ではありませんが、長期で見れば最も負けにくいのです。
今後、世界人口も増えて経済は更に発展すると私は考えているので、ピッタリな投資対象です。もちろん不況もあるでしょうが、10年、20年、それ以上の期間を見据えての投資なので、いつ起きるか分からないものを気にしても詮無いことですし、紆余曲折あっても世界経済は成長するだろうと思っているので、多少下がったところで、でもまあ持ち直すからねえと、既定事項のように捉えています。なお、暴落しないとは言っていません。暴落時には普通に下がります。その時は耐え忍ぶのみです。
個別株の場合、以下の4点と決算の内容について注目しながら、持続的発展を信じられる銘柄を保有しています。
- その会社が強いコアビジネスを持っているか
- コアビジネスを持続的に発展させるために、事業環境に合わせた適応を自ら行ったり、環境自体を作り出す動きができているか
- コアビジネス以外に、将来に向けて楽しみな事業投資をしているか
- 上記を判断できる知見が自分に備わっているか
大変幸運なことに、この10年(2012-2021)では個別株からの利回りが S&P500 を上回ることの方が多かったので、今後もこのやり方を続けていきます。
稼ぐ力
また、お金を稼ぐ力が高ければ、さらに落ち着いていられるでしょう。暴落時には誰しも心を乱すものですが、同時に、値下がりした銘柄を経済が持ち直すまで保有しても、普段の収入で日々の暮らしや将来への計画を維持できると思える状況にあれば、下落時の力強い安心材料になってくれます。
ちなみに私も過去に3回の暴落を経験していますが、その時の気持ちを率直に記すと以下のような心持ちでした。
- リーマンショック(2008)
- 株価めっちゃ下がる!時間をかけて下がり続ける!つらい!
- でもご飯食べられてる。株は一時忘れて、本業でもっと稼げるよう頑張ろう!
※金額が小さかったので気にせずいられた部分が大きいと思います。 - チャイナショック(2015)
- 仕事、忙しい……
- まだ、忙しい……
- あっ、株価上がり始めた……
※多忙な時期と重なっていたので、鈍感なまま淡々と積み上げていました。 - コロナショック(2020)
- おおお下がった。嫌だなあ……
- ただ、明らかに外的要因からの下げなので、むしろバーゲンセールでは。
- 嫌なものは嫌だけど、チャンスなので積み上げ継続!
本業の収入増を目指す計画の立て方についても書いてみたいのですが、長すぎるのでそちらは次回以降にまとめてみます。
まとめ
- 欲求:どのくらいリスクを取りたいか?
- 許容額:いくら投資に回せるのか?
- 耐性:どのくらい心を強く保てるのか?
そして、リスクに対する耐性(心理的な強さ)を向上させるには、自分がよく理解していて、信じられる対象に投資するのが良く、収入を上げられれば、さらなる精神の安定につながります。下落相場で肝を冷やした方は、ぜひ自分のリスク許容度を再確認してみてはどうでしょうか。
【特に参考になった記事】
- Risk Tolerance, Risk Capacity, and Risk Alignment: How to Take on the Right Level of Risk - The Street
- 感情と許容額がそれぞれ高い場合と低い場合より組み合わせ別に、どのようにその差分を織り合わせていくかのシナリオが説明されていて、とても参考になりました。ページ内で著者が説明する動画もあるので、英語でこのあたり理解したい方にもおすすめです。
- Difference between Risk Appetite, Risk Capacity and Risk Tolerance - Yadnya Investment Academy
- 日本語の記事や本だとリスク許容度は感情と許容額をひと括りにしていて、英語ソースでは両者を分けていました。ただ、英文資料でも感情の中に欲求と耐性をひと括りにしてしまっているものが多く、その2つを分けて、欲求、耐性、許容額の3つで説明をしていたのがこちらのサイトです。
コメント